アースマラソンサポート記 北米横断38日目

2009年4月25日
 Fort Garland〜Walsenburgまでの55km。
 町の名前を云っても大都市の名前しか知らない読者が多いと思う。ロッキー山脈南端R160でコロラドからカンザス州に抜けるルート沿いの本当に小さな町。周囲には4000m級の山々が文字通り点在している。この辺りの人たちは標高1800〜2600mくらいのところに住んでいる。もちろん、先住民のインディアンも多い。標高の高い山が点在しているから風も吹きやすく、しかも強風だ。山々のすそ野あたりは乾燥した砂漠になっているから、風土としては一口でいうときびしい自然環境の中、といえるだろう。しかし、その自然と共生しあい、しかも共生の中から生きてゆくための知恵と工夫を生み出し、自然を重んじて自然からの恵みを恩恵として生きる糧にしている、とそんな印象を強く感じながら、アースマラソンを寛平さんと過ごしている。走り手の寛平さんも走る自分を孤立させず、スタッフがアシストすることすべてを共有し、しんどいことも楽しいことも分かち合いながら進んでゆく、という姿勢を日々の中で随所に感じることができる。つまり、一家状態、といった方がわかりやすいだろう。

 スタートして12kmあたりまでいつもの調子が出なかった寛平さんは、これから上ろうとしている峠に差し掛かった時に、ルートを右にそれる山道に入ってしまった。「オールドパス」といわれる旧道だ。道は土道でまさに針葉樹林におおわれた山である。あとで聞いた話だが、身体の調子がいまいちだったので、気分転換と自然道の方が走りやすかったことが理由だったとのこと。しかし、神さんはここで寛平さんに意外な贈り物を与えてくれたのである。それは1880年代には鉄道の駅もあり、一つの集落を形成していた町にぶつかったのだ。そしてこの町(過疎で、今は置き去りにされた町)にたった一人で住んでいるという方と遭遇し、言葉が通じないまでも自分の素性と日本人であることを伝え、思いがけない歓迎を受け、心の癒しを受け取ることになったのだ。日本を離れすでに4か月以上が経過、寂しい心情があったときに言葉は通じなくても「心でする会話」で、強いパワーをもらって再びR160でスタッフと合流したのである。ウルトラマラソンは体力だけでするものでもなく、技術だけでするものでもない。勿論、それらの要素は必要なものではあるが、もっと大きくて大切なものは「人」として生きるスタンス、つまり心がけだ。感謝すること、生かされている自分を知ること、自然には逆らわないこと、何よりも真摯であること、である。いつ、どこで、どのようなことに出くわすかわからない中で、こんな心持でいることができたら、必ず救う神も人も状況も生まれる可能性があるんだ、ということを教えられた本日だった。

 La Veta Peakの尖った峰を左手見に見ながら山を左に巻いてR160をWalsenburgに向かうと右手にインディアン語で「乳の山」と呼ばれるCucharasとCordova双丘が雪をかぶって聳えて見える。裾野もくっきり尾を引くように美しい。近隣の山(といっても山と山の間隔はざっと50〜60kmくらいはあるが)と裾野が重なり合うように連なるところをR160が通り抜けているのである。Walsenburg手前10マイルくらいの双丘が見える地点で今日を終えた。走行距離50km。ここまで来ると朝の冷え込みがはっきりと減ってきていることがわかる。

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